カミラ・カベロ。ラテンのリズムとポップの感性を併せ持つシンガーとして知られる彼女は、近年、俳優としても新たな表現の地平を切り拓いています。映画『シンデレラ』(2021)では、現代的な視点から再構築された物語の中心に立ち、歌唱と演技を自在に行き来する姿を見せました。音楽シーンで培った感情の表現力が、映画という物語空間でどのように息づいていくのか――。その一歩には、ステージの延長線ではない、ひとりの表現者としての確かな覚悟が感じられます。
今回は、歌手から俳優へと進化を遂げたカミラ・カベロの歩みと、作品に刻まれた“声の演技”を紐解きます。
| 名前 | カミラ・カベロ(Camila Cabello) |
| 生年月日 | 1997年3月3日 |
| 出身地 | キューバ・ハバナ生まれ/アメリカ・マイアミ育ち |
| 活動開始 | 2012年(ガールズグループ「フィフス・ハーモニー」結成) |
| 所属マネジメント | Epic Records/Syco Music ほか |
| 代表作 | 映画『シンデレラ』(2021)/楽曲「Havana」「Señorita」「Never Be the Same」 |
| 受賞歴 | MTV Video Music Awards/American Music Awards/Billboard Music Awardsなど多数 |
俳優の歩み
🎬 デビュー:音楽の舞台からスクリーンへ
2012年、オーディション番組『The X Factor』から生まれた「フィフス・ハーモニー」で注目を集めたカミラ・カベロは、ポップシーンの中心でキャリアを築いてきました。そんな彼女が俳優としての第一歩を踏み出したのは、ケイ・キャノン監督による映画『シンデレラ』(2021)。自らの歌声を生かしながらも、既存の“プリンセス像”にとらわれない強い個性を打ち出しました。演技未経験にもかかわらず、セリフと歌の呼吸が自然に溶け合い、スクリーン上に新しいタイプのヒロイン像を描き出したのです。
🎥 転機:音楽的表現の延長線にある演技
『シンデレラ』を通して、カベロは「自分の声がキャラクターを導く」と語りました。音楽で培ったリズム感や抑揚が、彼女の演技の基礎になっています。セリフを“メロディのように”感じ取り、感情を一音ずつ解釈していく。その繊細なアプローチが、物語の中で自然な説得力を生みました。また、制作期間中には即興的な歌唱や表情のニュアンスが採用され、音楽家ならではの自由な発想が演技に反映されています。この作品以降、彼女は俳優としての活動にも本格的な関心を示すようになります。
🎞 現在:ポップ・アイコンからアーティスト俳優へ
現在のカミラ・カベロは、音楽と映画を“別の表現手段”として位置づけています。彼女が近年語るのは、「声も身体も、物語を語るための楽器」という考え方。新作映画の準備や海外ドラマへの出演の噂もあり、俳優としての活動領域は着実に広がりつつあります。かつてステージで歌っていた情熱が、スクリーン上では沈黙の演技や目線の演出に変わり、より深い感情表現を見せています。ポップ・スターから“表現者”へ。その変化は、彼女のキャリア全体をより立体的なものにしています。

俳優としての軸と評価
🎭 演技スタイル:感情のリズムで動く
カベロの演技は、音楽的なリズム感に満ちています。セリフのテンポ、呼吸の長さ、視線の間合いなどが、すべて“歌うように”設計されているのです。そのため、彼女の演技はリアルというより“感情の波”として観客に届きます。『シンデレラ』では、悲しみや喜びの起伏が明確で、感情が音楽のように立ち上がる印象を与えました。演技理論よりも感覚で動くタイプであり、監督ケイ・キャノンも「彼女の演技は、音が止まってもメロディを感じる」と評しています。
🎬 作品選び:物語のメッセージ性を重視
カベロが出演作を選ぶ際の基準は、「物語が誰かを励ますことができるか」だと語ります。『シンデレラ』もその一例で、女性の自立や夢への挑戦を描いた現代的な再解釈が、彼女の信念と重なりました。自身の楽曲にも通底する“自己表現と自由”というテーマが、映画でも一貫して存在しています。音楽活動で社会的メッセージを発信してきた彼女にとって、映画はその延長線上にあるもう一つのプラットフォームなのです。
🎥 関係性:監督・共演者と築く信頼
『シンデレラ』の撮影現場では、カベロの明るさと柔軟性が多くの共演者を惹きつけました。監督ケイ・キャノンとは、脚本の段階からキャラクター像を共有し、歌詞やセリフのトーンを一緒に探っていったといいます。また、共演者のビリー・ポーターやイディナ・メンゼルとの関係も良好で、音楽と演技の境界を越えたコラボレーションが生まれました。この“チームで表現をつくる”感覚は、グループ活動出身の彼女ならではの強みでもあります。
🎞 信念:“声”で世界を変えるという使命感
カベロの根底には、常に“声の力”への信頼があります。移民として育った自身の背景から、表現することの意味を強く意識しており、社会問題や女性の自己肯定感についても積極的に発信しています。その姿勢は、スクリーン上でも一貫しています。『シンデレラ』で彼女が示したのは、受け身ではないヒロイン像、そして「誰もが自分の物語を語る権利を持つ」というメッセージでした。歌も演技も、彼女にとっては“世界と対話するための言葉”なのです。
代表的な作品
📽 『シンデレラ』(2021)── 新時代のヒロイン像を体現
音楽映画の枠を超え、自己実現の物語として再構築された本作で、カベロは主役エラを演じました。夢を追う情熱と、現実への葛藤を歌と演技で表現。特に、工房でドレスを作るシーンでは、内なる意志が静かな視線に宿り、音楽的クライマックスと呼応します。彼女の“声を持つヒロイン”像は、多くの若い観客に共感を呼びました。
📽 『Havana』(MV)── ストーリーテリングとしての演技
ミュージックビデオ『Havana』では、俳優的な演技力を先取りするようなストーリーテリングを披露。ラテン映画のような構成で、自分自身の内面とフィクションを往復する演出が際立ちました。短い尺の中で多様な表情を使い分け、音楽と物語の境界を曖昧にするカベロの映像感覚が光ります。
📽 『Cinderella: Making of』(2021)─ 制作過程で見せた俳優の顔
ドキュメンタリー形式で撮影されたメイキング映像では、彼女がどのように演技を構築していくかが見えてきます。セリフのトーンを繰り返し試し、歌詞に込めた意味を演技に重ねる様子は、まさにアーティストとしての精度を象徴しています。監督との対話を通じてキャラクターを作り上げていく姿が印象的です。
📽 『It Takes Two』(音楽番組ライブ演技)─ 舞台的表現の延長
2022年のライブパフォーマンスでは、舞台演技の要素を取り入れた構成で観客を魅了しました。ステージ上での動きや表情の作り方が、映画での演技にも通じる構築的なスタイルへと進化していることを感じさせます。歌と演技が一体化する瞬間に、彼女の今後の方向性が垣間見えます。

筆者が感じたこの俳優の魅力
カミラ・カベロの魅力は、“声”という存在そのものにあります。歌声はもちろん、セリフを発するときのトーンや間合いにも、彼女独自の音楽性が息づいています。演技経験が浅いにもかかわらず、キャラクターの感情を“響き”として表現する手腕は、まさに音楽家の感性に根ざしています。
また、彼女が放つポジティブなエネルギーは、観る人を自然と惹きつけます。『シンデレラ』で見せた現代的なヒロイン像は、強さよりも「自分の声を信じること」の大切さを伝えるものでした。その柔らかさと芯の強さの両立が、カベロという俳優の新しい魅力を形づくっています。
これから彼女がどのような作品で、自身の“声”を使い続けるのか。音楽と映画、二つの領域を自在に行き来する表現者として、カミラ・カベロの挑戦はまだ始まったばかりです。
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