結婚5年目のジョンとジェーン・スミス。平凡な郊外の夫婦として暮らす二人は、互いに秘密を抱えていた。どちらも、世界的な暗殺組織に属するエージェント。同じ屋根の下で生活しながら、互いの正体を知らないまま任務をこなしてきた。ある日、同じターゲットを狙ったことでその事実が露見し、夫婦生活は一転して銃撃戦へと変わる。破壊と再生、欺瞞と愛情。嘘の上に築かれた関係が崩れるとき、初めて“本当の自分”と“相手の真実”が見えてくる。愛の正体を問うスパイ・ロマンスの快作。

制作年/制作国:2005年/アメリカ
上映時間:120分
監督:ダグ・リーマン
主演:ブラッド・ピット、アンジェリーナ・ジョリー、ヴィンス・ヴォーン
ジャンル:アクション・ラブロマンス
タグ:#スパイ #夫婦 #秘密 #アクション #愛と欺瞞
あらすじ
物語の始まり(平穏な家に潜む秘密)
高級住宅街に暮らすスミス夫妻。外から見れば完璧な夫婦、互いに礼儀正しく、隣人に微笑み、何の問題もないように見える。だが、夫ジョンは建設会社を装う暗殺者、妻ジェーンもシステムコンサルタントを名乗るプロのエージェントだった。お互いの素性を知らぬまま、5年間、平行線のように生活してきた。
食卓に並ぶワインのグラス、会話の隙間に漂う沈黙。そこには退屈よりも“違和感”があった。ある夜、別々の任務で同じターゲットを狙った二人は、仮面を外すように互いの正体を知る。平穏だった家の中に、火花が散る。
物語の変化(破壊と再生のはざまで)
秘密が暴かれた瞬間、夫婦は敵になる。互いを抹殺する命令を受け、銃を構えるが、撃てない。そこにあるのは憎しみではなく、抑えきれない興奮と好奇心だった。
キッチンでの格闘、リビングを駆け抜ける銃弾、崩れ落ちる家具。ダグ・リーマン監督は、家庭という密室を戦場に変え、感情の衝突を物理的な破壊で表現する。
やがて二人は互いを追うことをやめ、協力して組織に立ち向かう。逃亡の途中で見せる視線、無言で渡す武器、かすかな笑い。破壊の中に再び芽生える信頼が、映画の温度を変えていく。戦いながらも、どこかで愛し合っている。皮肉とロマンスが入り混じる時間が続く。
物語の終盤(愛という戦場)
最終局面、ふたりは無数の敵に囲まれた建物の中で背中を合わせる。弾丸の雨が降り注ぎ、息を合わせて撃ち返す。その姿はもはや暗殺者ではなく、パートナーとしての信頼そのもの。
戦闘の合間に交わされる視線と笑み、そして「君と出会って良かった」という無言の会話。家も過去も壊れたが、残ったのは“本当の二人”だけだった。
銃声が止み、静けさの中で互いの手を握る。外の世界は崩壊しても、愛が残る。ラストシーンの穏やかなインタビューに戻ると、そこにいるのはもう“他人を演じる二人”ではない。戦いを経て、ようやく本音を話せる夫婦になっていた。
印象に残る瞬間
キッチンの戦闘シーン。ワイングラスが割れ、床に転がる銃、食器棚が粉々になる。カメラは動かず、二人の距離だけを映す。音楽が途切れ、代わりに呼吸と衝撃音だけが響く。銃口が向き合い、ほんの一瞬の沈黙が訪れる。
その間に流れるのは怒りでも恐怖でもなく、理解の気配。互いを初めて“見た”瞬間がそこにある。やがて同時に笑い、同時に撃つ。破壊と笑いが重なり、緊張と安堵が一つになる。
このシーンは、夫婦の心理を最も正確に描く比喩的な構図です。愛は静かに積み上げるものではなく、ときに壊すことで確かめるもの。暴力の中にこそ、真実がある。

見どころ・テーマ解説
現実が照らす人間の輪郭
『Mr.&Mrs. スミス』は、スパイ映画の形式を使いながら、結婚という現実の関係を鋭く映し出します。監督ダグ・リーマン(『ボーン・アイデンティティー』)は、アクションの緊張感と人間ドラマのリアリティを融合させ、男女の心理戦を映像的に描きます。
日常と非日常の対比がこの作品の軸です。朝の食卓と夜の銃撃戦、沈黙と爆音。互いに隠していた“任務”が、実は愛の延長線上にあることを暗示します。結婚生活というスパイ活動の中で、人はどこまで本音を隠し、どこで暴かれるのか。作品はその問いをアクションの中に埋め込んでいます。
真実と欺瞞のはざまで
ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーの化学反応は、作品の最大の魅力です。初共演の緊張感と現実の恋愛関係が、画面の温度として伝わってきます。
互いの動作や間合いが完全にシンクロする瞬間、観客は“演技ではない呼吸”を感じる。欺瞞に満ちた世界で、真実の感情だけが生き残る。ピットの冷静さとジョリーの鋭さ、その対比が、夫婦のバランスを象徴します。
戦うことでしか語れない愛情があるというテーマが、ユーモアを交えながら貫かれています。
崩壊と救済のゆらぎ
本作の中盤、家の中が破壊されていく映像は、二人の感情の噴出を視覚化したものです。リーマン監督は編集と音のテンポを巧みに操作し、破壊を美しく見せます。カメラが揺れるたび、家具が砕け、壁が崩れ、同時に二人の心の壁も壊れていく。
やがて廃墟の中で笑い合う二人の姿が映され、崩壊が救済に変わる。愛の再生を描く映画として、これほど直接的で誠実な表現は少ない。壊れることでしか、始められない関係もあるのです。
沈黙が残す問い
ラストのインタビュー場面、穏やかな音楽の中で「結婚生活はどうですか?」と問われ、二人は互いに視線を交わし、笑う。言葉よりも、その沈黙の方が雄弁です。
派手なアクションのあとに訪れるこの静けさが、作品の余韻を決定づけます。愛は終わりのない戦いではなく、選び続ける行為だと気づかせる。
リーマン監督はこの余白の時間で、“戦いの後の幸福”を描き切ります。沈黙の笑みこそが、真実の勝利の証です。
キャスト/制作陣の魅力
ブラッド・ピット(ジョン・スミス)
『セブン』『ファイト・クラブ』『オーシャンズ11』などで見せた知的なタフネスに、本作ではユーモアと疲れの入り混じった人間味を加えています。完璧ではない男の魅力を、軽妙なテンポと表情で描き、アクションスターの新境地を開きました。
アンジェリーナ・ジョリー(ジェーン・スミス)
『トゥームレイダー』『チェンジリング』『マレフィセント』で知られる彼女が、本作では冷酷さと情熱を併せ持つキャラクターを鮮やかに演じます。強さの裏にある脆さを一瞬の目線で見せ、アクションの中に感情の深みを生み出しています。
ヴィンス・ヴォーン(エディ)
『ドッジボール』『ハッカビーズ』『スウィンガーズ』などコメディ色の強い作品で知られる俳優。本作ではジョンの相棒として、シリアスな物語に軽やかな笑いを添え、緊張と緩和のバランスを保つ重要な役割を担っています。
ダグ・リーマン(監督)
『ボーン・アイデンティティー』『スウィンガーズ』『フェア・ゲーム』の監督として、キャラクターの心理をリアルなアクションの中で描く手腕に定評があります。本作では、夫婦関係をスパイ戦として再構築し、スタイリッシュでありながら感情の熱を失わない演出を貫きました。

物語を深く味わうために
『Mr.&Mrs. スミス』をもう一度観るとき、注目したいのは“間”と“視線”です。セリフよりも先に視線が交わり、沈黙の中で関係が変わっていく。アクションのテンポが速いほど、その一瞬の静けさが際立つよう設計されています。
また、照明の使い方も特徴的です。家庭のシーンでは柔らかな黄色、戦闘の場面では冷たい青。光の温度が感情の距離を示します。編集リズムの緩急が、夫婦の会話のリズムそのものであり、戦いながら理解し合う二人の姿を自然に映し出しています。
アクションとロマンスの融合というより、愛と真実の“衝突”を描いた映画です。
こんな人におすすめ
・恋愛の駆け引きや心理戦にスリルを感じる人
・アクションの中にユーモアと感情を求める人
・ブラッド・ピット&アンジェリーナ・ジョリーの共演を堪能したい人
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