ザ・フォールガイ(The Fall Guy) — 壊れた身体が追いつくまでの愛と仕事

ハリウッドの現場で命がけのスタントを担ってきたコルトは、撮影中の事故で重傷を負い、第一線を離れて静かな生活を送っていましたが、ある日、復帰を持ちかけられます。元恋人ジョディが監督を務める新作の現場に呼び戻されます。2024年アメリカ制作の本作は、デヴィッド・リーチ監督とライアン・ゴズリング、エミリー・ブラントが組み、アクションとユーモアに“再生”の感情を重ねています。豪快な爆破の裏側で鳴り続けるプロ同士の敬意と、心の距離の変化を追いかけ、ハリウッドが支えられてきた“影の職人”たちの仕事を等身大に描きます。恋と仕事の両方が不器用に絡まりながら前へ進む姿が軽やかに刻まれ、最後に静かな余韻を残します。

作品概要

制作年/制作国:2024年/アメリカ
上映時間:126分
監督:デヴィッド・リーチ
主演:ライアン・ゴズリング、エミリー・ブラント、アーロン・テイラー=ジョンソン
ジャンル:アクション/ロマンス/コメディ

目次

あらすじ

物語の始まり

コルトはハリウッドの現場で、主演俳優の影に隠れて危険なアクションを担うスタントマンとして日々を過ごし、派手な爆破や高所落下を淡々とこなしていましたが、撮影中の事故で大きな怪我を負い、仕事から離れることを余儀なくされます。身体の痛みが残る療養の日々を送りながらも、気になるのは離れてしまったジョディの存在です。彼女に連絡を取れないまま、時間だけが過ぎていきます。そんなある日、かつての仲間から新作への参加を打診され、監督がジョディだと知った瞬間に胸が波立ち、迷いながらも現場へ戻る決意を固めます。久しぶりのセットには巨大な装置と緊張したスタッフの空気が漂い、コルトは昔の勘を取り戻そうと動きを確かめながら、ジョディの視線を避けるように歩きます。身体はまだ完全ではなく、感情も整理されてはいませんが、再び現場の音と温度に触れた瞬間、彼の時間はゆっくりと動き出します。

物語の展開

撮影現場では大掛かりなアクションが続き、コルトは痛む身体をかばいながらも、仲間たちと軽口を交わして流れに戻ろうとします。ジョディは監督として毅然と振る舞い、コルトへの距離を保ちながらも、彼の動きに細やかな目を向けています。一方、主演俳優のトムが突然姿を消し、制作側は混乱します。コルトは“影の捜索役”として裏側に回ることになります。彼は無事に撮影を動かすため、そしてジョディに迷惑をかけないため、街中を駆け回り、スタントで鍛えた身体で危険な状況をくぐり抜けていきます。ジョディは撮影を維持するために奔走し、ふたりの会話は仕事と私情が入り混じり、ぎこちなさが残りながらも温度が少しずつ変わっていきます。コルトは自分が戻るべき場所を確かめるように走り続け、やがてトムの失踪にまつわる複雑な事情が姿を見せ、コルトとジョディの関係にも新しい流れが生まれます。

物語が動き出す終盤

物語が後半へ進むと、トムの失踪がただのトラブルではなく、制作の内部にある思惑や責任回避が絡み合った問題であることが明らかになり、コルトは事態を収めようと奔走します。身体に痛みを抱えたまま危険に飛び込む姿には、かつての無鉄砲さだけでなく、ジョディとの関係をもう一度正直に見つめたい思いがにじみます。彼の動きには、ためらいと決意が混ざります。ジョディもまた、監督として現場を守りながら、自分の作品を正しい形で仕上げたい気持ちを抱き、コルトの姿を複雑な思いで見つめます。クライマックスに向かうにつれ、アクションの規模はさらに大きくなり、爆破や追走シーンが続きますが、その裏でふたりの関係が静かに輪郭を整えていきます。何を選び、どこに立つのかという問いは最後まで語られず、答えの手前で物語は穏やかに締まり、観る者に余韻を残します。

印象に残る瞬間

夜の港に組まれた巨大なセットで、コルトがワイヤーに身を預けながら片足を引きずり、照明の光に包まれた装置の間を進む場面があります。爆破準備の音が遠くから響き、スタッフの声が途切れ途切れに入ります。風が衣装の端を揺らし、海面の反射がわずかに揺れてセットの鉄骨に映ります。コルトは深呼吸をひとつし、痛む脇腹を軽く押さえながらモニター方向へ歩き、ジョディの姿が輪郭だけで見える位置で立ち止まります。照明が落とされる直前、静けさが一瞬だけ広がり、次の合図を待つ空気が凝縮し、彼の視線はジョディにもアクションにも向かず、宙を探ります。爆破の衝撃が遅れて響き、熱が風に押されて流れ、その中で彼の身体が大きく揺れ、着地の衝撃音が鉄骨に響きます。音が吸い込まれるように消えた瞬間、彼の背中にだけ余韻が残り、仕事と愛が重なる場所の現実が浮かび上がります。

見どころ・テーマ解説

道が映す心の変化

本作では、コルトの移動する道や撮影現場の配置が、彼の心の揺れをそのまま映します。事故後に戻ってきた彼は、照明の強さに一瞬だけ目を細め、スタッフの動線を避けるように歩き、身体に残る痛みを隠しながらリズムを整えます。道具の間を抜けるたびに影が伸び、彼の歩幅が変わり、再び前に進もうとする意志が、形になっていきます。

愛が変えるもの、残すもの

ジョディとの関係は劇的に動くわけではなく、視線の交差や会話の途切れ方で変化を示します。ジョディが監督として指示を出す声には緊張と距離が混じり、コルトはそれに対して小さな動作で応えます。ふたりのあいだに残された過去の痛みは消えませんが、撮影が続く時間の中で少しずつ形を変え、互いを再び見つめ直す余地が生まれます。

映像が示す仕事の尊厳

スタントの動作は派手な演出のためではなく、身体が積み上げてきた経験と技術の連続として描かれます。カメラは落下や衝突の瞬間だけでなく、その前の準備や姿勢の調整に寄り添い、爆破の裏側で動くスタッフの呼吸や合図を映します。監督は仕事の裏にある尊厳を丁寧に拾い、アクションがただの見せ場ではないことを示します。

余韻としての沈黙

大掛かりなアクションの後には必ず静けさが訪れ、コルトの呼吸だけが画面に残ります。この沈黙は、達成感でも失望でもなく、仕事を続けていく現実の重さを伝えます。派手な爆破のあとに広がる空白が、彼の再生を支える時間として刻まれます。

キャスト/制作陣の魅力

ライアン・ゴズリング(コルト)

繊細な演技で知られる彼は、本作で身体を張りながらも表情のわずかな揺れで心の不安や迷いを映し、アクションと感情のバランスを立体的に作り上げています。

エミリー・ブラント(ジョディ)

幅広いジャンルで存在感を示してきた彼女は、本作で監督としての厳しさと、コルトとの複雑な距離を繊細に演じ、声の抑揚や視線の動きに緊張と温度を重ねています。

アーロン・テイラー=ジョンソン(トム)

豪放なスター俳優を自然な軽やかさで演じ、周囲を振り回す存在として物語の動きに明確なアクセントを加えています。

デヴィッド・リーチ(監督)

元スタントマンとしての経験を生かし、アクションの裏にある技術と尊厳を丁寧に映しながら、軽やかなリズムと温かい視線で物語を支えています。

物語を深く味わうために

アクションの派手さだけでなく、それを支える身体の使い方や距離の取り方に注目したいところです。コルトが落下装置に乗る前に一度だけ肩を回す動作や、ジョディがモニターの前で息を整える仕草は、プロとしての緊張と不安をそのまま映します。セットの照明は動きに合わせて強さを変え、爆破前のわずかな暗転は登場人物の心の準備を示します。撮影が止まり、音が消えた瞬間に残る静けさは、仕事の裏側にある“待つ時間”を浮かび上がらせ、コルトが再び現場に立つ意味を自然に伝えます。アクションを追うだけでなく、その前後にある呼吸と間を見つめることで、物語に通う再生の温度が見えてきます。この映画は、再生とは何かを問いかけています。


こんな人におすすめ

・映画制作の裏側を描く作品が好きな人
・アクションと恋愛が自然に交差する物語を求める人
・不器用な再生のドラマに惹かれる人

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・「ラ・ラ・ランド」──恋と仕事のすれ違いを描く
・「トップガン マーヴェリック」──職人たちの技術と誇り
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配信ガイド

現在配信中:Amazon Prime Video/U-NEXT
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