「エイリアン:ロムルス」は、長い歴史を持つシリーズの時間軸の空白に位置づけられた、独立性の高い一作です。物語の舞台は、企業支配が色濃く残る時代の辺境コロニーです。若者たちは現状を抜け出すため、廃棄された宇宙施設へと足を踏み入れます。
中心となるのは、ケイリー・スピーニー(レイン)とデヴィッド・ジョンソン(アンディ)という、行動を共にする二人です。彼らは、労働と管理の構造の中で生きる存在として描かれています。施設内で想定外の事態が発生したことをきっかけに、彼らの探索は、単なる調査では済まなくなっていきます。
本作はシリーズの象徴的存在を再解釈しつつ、密閉された空間と限られた人数による緊張関係に焦点を当て、観客を物語の初動へと導いていきます。

制作年:2024年
・制作国:アメリカ
・上映時間:約120分
・監督:フェデ・アルバレス
・主要キャスト:ケイリー・スピーニー、デヴィッド・ジョンソン
・ジャンル:SF/ホラー/スリラー
あらすじ
物語の始まり
企業管理下に置かれた辺境のコロニーで、若者たちは限られた選択肢の中で日々を過ごしています。レインとアンディもその一人であり、将来の展望を持てないまま労働に従事しています。彼らは現状から抜け出す手段として、軌道上に放置された宇宙施設の存在に目を向けます。公式には使用不能とされ、長く人の出入りがないその施設には、回収可能な資源が残されている可能性がありました。
小規模な仲間たちと共に施設へ向かった一行は、内部が想定以上に保たれていることに気づきます。静まり返った通路や制御室には、かつての活動の痕跡が断片的に残されており、探索は慎重に進められていきます。しかし、立ち入り制限区域で予期せぬ異常が発生したことをきっかけに、彼らの計画は最初の前提から揺らぎ始めます。
物語の展開
施設内の異常は単なる故障ではなく、過去に何が行われていたのかを示す兆候として現れていきます。通信の断絶、作動しないはずの装置、意図を読み取れない記録データ。レインたちは状況を把握しきれないまま、行動範囲を制限されていきます。空間は広いはずなのに、進める場所は次第に減っていき、判断の猶予も短くなっていきます。
仲間同士の役割分担は曖昧になり、誰が決定を下すのかも定まらなくなります。施設が本来担っていた目的の輪郭が見え始めたとき、彼らは自分たちが単なる侵入者ではなく、想定外の存在として扱われている可能性に気づきます。逃げるべきか、状況を利用すべきかという選択が迫られる中で、それぞれの立場や行動原理に微妙なずれが生じていきます。
結末への選択肢
時間の経過とともに、施設は外界から切り離された閉鎖空間としての性格を強めていきます。限られた情報と資源の中で、レインたちは今後の行動を決めなければならない状況に置かれます。残された記録が示す過去の判断と、彼ら自身が下そうとしている決断は、必ずしも同じ方向を向いていません。
施設を離れることは可能なのか、それとも内部に留まるという選択肢があるのか。安全と引き換えに失われるもの、危険を受け入れることで得られる可能性。その分岐点に立たされたまま、物語は明確な答えを提示する前段階へと進んでいきます。
印象に残る瞬間
宇宙施設の内部を進む一行が、ある区画の前で足を止める場面があります。扉は半開きの状態で固定され、完全には閉じていません。その隙間から見えるのは、広さの把握しづらい暗い空間です。誰も中へ入ろうとせず、カメラも距離を保ったまま動きません。人物の背中越しに、開いた扉の奥が画面の大半を占める構図となり、観客は中を覗き込む立場に置かれます。音楽はなく、聞こえるのは装置の作動音と呼吸音だけで、時間が引き伸ばされたように感じられます。
この場面では、何かが現れることよりも、「何も起きていない状態」が強調されています。カメラは寄らず、視線の位置も一定のままで、登場人物たちの表情を説明的に映しません。誰かが一歩踏み出せば状況が変わることは分かっていますが、その一歩がなかなか訪れません。観客は判断を委ねられたまま、空間の沈黙と向き合うことになります。
やがて小さな動きが起こりますが、それは決定的な出来事ではなく、あくまで均衡が崩れ始めた兆しに過ぎません。音の変化も遅れて訪れ、恐怖を煽るための強調は意図的に控えられています。この一連の演出は、危険そのものよりも、危険を察知しながら動けない状況を記憶に残します。何がいたのか、何が起こったのかよりも、その場に流れていた時間と距離感が、後になって思い返される瞬間となっています。

見どころ・テーマ解説
時代と構造としてのテーマ
本作が置かれる時代背景は、シリーズ初期に近い、企業支配の強い世界観です。ただし、その構造は説明によって示されるのではなく、登場人物たちの置かれた立場や行動範囲によって自然に浮かび上がります。彼らは選択肢を持たない存在として描かれ、移動・労働・判断のすべてが制限されています。その環境下で「別の場所へ行く」という行為自体が、ささやかな抵抗として機能します。物語は巨大な陰謀や理念を掲げるのではなく、管理された社会の末端にいる若者の現実を通して、シリーズが一貫して扱ってきた支配構造を再提示しています。
画面に見えるものの配置
施設内で繰り返し強調されるのは、空間の広さと実際に使える範囲の乖離です。通路は奥まで続いているように見えますが、照明や隔壁によって進行方向は限定されます。人物は常に画面の一部に押し込められ、余白が不安定さを生みます。何かが現れていなくても、配置そのものが状況の危うさを語る構図となっています。アクションや派手な演出に頼らず、立ち位置や距離によって緊張を積み重ねていく点が、本作の視覚的な特徴です。
見えないものとしての沈黙
本作では、説明されない情報や判断されないまま残る事柄が多くあります。過去に何があったのか、なぜその判断が下されたのかといった点は、断片的な手がかり以上には示されません。沈黙や空白は不親切さではなく、登場人物と観客を同じ立場に置くための装置として機能しています。分からないまま行動を選ばなければならない状況が続き、理解よりも対応が優先されます。その積み重ねが、物語全体に独特の緊張感を与えています。
作り手の距離の取り方
監督の選択として際立つのは、観客に寄り添いすぎない距離感です。恐怖や驚きを明確に指示する演出は控えられ、カメラは出来事を一定の距離から見守る姿勢を保ちます。編集も過剰な切り返しを避け、場面が持つ時間を尊重しています。その結果、出来事の意味づけは観客側に委ねられます。本作は何をどう感じるべきかを示すのではなく、判断が保留された状態そのものを体験させる構成を選んでいます。
キャスト/制作陣の魅力
ケイリー・スピーニー(レイン)
ケイリー・スピーニーは、本作において、物語の行動軸となるレインを演じている。代表作であるプリシラでは、実在の人物像を過剰に語らず、視線や間によって内面の揺れを表現してきた。本作のレインも同様に、感情を前面に出す人物ではなく、制限された環境下で判断を迫られる存在として配置されている。恐怖や葛藤を説明するのではなく、動きの遅れや選択の迷いによって人物像が浮かび上がる点が、本シリーズの世界観と自然に接続している。
デヴィッド・ジョンソン(アンディ)
デヴィッド・ジョンソンは、レインと行動を共にするアンディ役を演じている。代表作であるドラマシリーズインダストリーでは、集団の中で立場が揺れ動く人物を演じ、状況対応型の演技を見せてきた。本作のアンディもまた、明確な主導権を持たない立場に置かれ、判断を即断しない態度が物語の緊張を支える。台詞による説明よりも、行動の選択や立ち位置の変化によって関係性が示される点が特徴である。
イザベラ・メルセード(ケイ)
イザベラ・メルセードは、若者たちの中で、異なる距離感を持つケイを演じている。トランスフォーマー/最後の騎士王やドーラといっしょに大冒険では、前向きで明確なキャラクター像が印象的だったが、本作では集団の中での温度差や視線の置き方が重視される役柄だ。発言の多さではなく、空間内での配置や反応の遅れによって、役割が静かに変化していく。
フェデ・アルバレス(監督)
フェデ・アルバレスは、代表作ドント・ブリーズで、閉鎖空間における視覚情報の制限と、緊張の持続を描いてきた監督である。本作でもその手法は踏襲されており、恐怖を即座に提示するよりも、把握しきれない状況を長く保つ構成が選ばれている。シリーズ作品でありながら、自身の作風を前面に出しすぎず、世界観に合わせた距離感を維持している点が特徴である。

この映画と向き合うときに
エイリアン:ロムルスと向き合うとき、観客は物語を理解する立場というより、状況の中に置かれた一人として画面を見続けることになります。登場人物たちは常に情報が不足した状態にあり、その不足は観客側にも共有されます。何が正しい判断なのか、どこまでが安全なのかは明示されず、ただ時間だけが進んでいきます。
施設という閉鎖空間は、恐怖を生む装置であると同時に、選択肢が削られていく過程を可視化する場所でもあります。進める方向が限られ、戻ることも簡単ではない状況の中で、人物たちは「何を選ぶか」よりも、「選ばざるを得ない状況」に追い込まれていきます。その様子を眺めていると、自分が同じ場所にいた場合、どこで判断を止めてしまうのかを考えさせられます。
本作は、理解や共感を急がせません。説明されないまま残る空白や、決定が保留された状態をそのまま差し出すことで、観客に考える余地を残しています。観終わった後に残るのは、出来事の整理よりも、あの場に流れていた時間や距離感で、それをどう受け取るかは一人ひとりに委ねられています。
こんな人におすすめ
・シリーズ初期の閉鎖空間的な緊張感を重視する人
・説明過多ではないSFスリラーを求めている人
・登場人物と同じ情報量で物語を体験したい人
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・『ドント・ブリーズ』|閉鎖空間での判断と沈黙を描いた作品
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