サスペンスと冒険、そして家族の絆が交差するSFドラマ『ラ・ブレア』。2021年にアメリカで放送が始まったこのシリーズは、ロサンゼルスの中心で突然開いた巨大な穴に街ごと呑み込まれるという衝撃的な出来事から始まります。時間を超えてつながる家族の物語が、恐怖と希望のあいだでゆっくりと形を変えていく──。壮大でありながら、心の奥に静かに届く物語です。

制作年/制作国:2021年〜2024年/アメリカ
シーズン数/話数:全3シーズン・30話
クリエイター:デヴィッド・アッペルバウム(制作統括)
主要キャスト:ナタリー・ジーア(イヴ・ハリス)、オーイン・マッケン(ギャヴィン・ハリス)、ザイラ・ゴレッキ(イジー・ハリス)、ジャック・マーティン(ジョシュ・ハリス)
ジャンル:SF/ドラマ/サバイバル
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あらすじ
① 物語の始まり
ある昼下がり、ロサンゼルスの街で大地が裂け、人々が“底の見えない穴”へと落ちていきます。イヴと息子ジョシュもその中に呑み込まれ、気がつけば広大な原始の世界に立っていました。見渡す限りの荒野、恐竜の影、霧に包まれた空。何が現実で、どこまでが夢なのか。
地上に残された夫ギャヴィンと娘イジーは、崩壊した街の中で家族の行方を探し続けます。静寂の中に響く車のエンジン音が、どこか遠くの時代へと引き寄せられていくようでした。
② 物語の変化
原始の地では、生き延びようとする人々の小さな社会が生まれます。イヴは元救急救命士として冷静さを保ち、ジョシュは未知の仲間と信頼を築こうとします。対して現代のギャヴィンは、時を超えて妻の姿を“幻視”するようになり、次第に現実の境界が曖昧になっていきます。
「君の声が聞こえたんだ」――その言葉が、空の向こうのイヴに届くのか。
光と影、現実と幻が交錯する中で、それぞれの心が少しずつ“再会”へと向かっていきます。
③ 物語の余韻
やがて物語は、1万年前の地層、1988年のロサンゼルス、さらには未来の2076年をも巻き込み、時間そのものを越える旅へと広がります。家族がバラバラになりながらも互いを信じ合う姿には、どこか懐かしい温度があります。
暗い洞窟の奥で光がまたたき、崖の向こうにかすかな出口が見える瞬間。
それが“帰る場所”なのか、それとも新しい始まりなのかは、誰にもわかりません。静かな息づかいだけが残り、画面の奥に未来の気配が漂います。
印象に残る瞬間
地面が裂け、街が沈み込む序盤のシーン。
音が消え、世界が一瞬だけ“止まる”瞬間がありました。
轟音のあとに訪れる静寂の中、母イヴが息子を呼ぶ声だけが響きます。
カメラはゆっくりと引き、裂け目の向こうに見える空を捉えます。
そこに射し込む淡い光は、破壊ではなく「もう一つの始まり」を示しているようでした。
後半、太古の草原を歩くイヴの背中を、逆光が包みます。
風の音、足音、遠くで鳴く鳥の声。
そのすべてが“生き延びること”の意味を語っていました。
この作品の印象は、恐怖でも絶望でもなく、「確かにここにいる」という小さな実感。
光が揺れるたびに、彼女の心もまた動いているように見えました。

見どころ・テーマ解説
① 静けさが語る心の奥行き
原始世界の夜、炎が風に揺れ、人々の影が地面に長く伸びます。ロングショットの構図が孤独を映し、自然のざわめきが耳の奥に残ります。イヴの視線は遠くを見つめ、カメラは彼女の迷いを静かに追いかけていました。恐怖と決意の狭間で、火の音だけが現実をつなぎ止めているように見えました。
② 感情のゆらぎと再生
ギャヴィンが街の雑踏の中で幻を見る場面では、逆光が彼の輪郭を淡く浮かび上がらせます。人混みのざわめきがふと途切れ、無音になる一瞬。彼の孤独が、音の消え際に滲んでいました。
「君が無事なら、それでいい」――その小さなつぶやきが、時を超える祈りのように響きます。
③ 孤独とつながりのあわい
見知らぬ世界で出会った仲間たちは、互いの恐れを抱えながら少しずつ歩み寄ります。広い構図の中で、人物と人物のあいだに余白があり、その距離が“信頼の始まり”を表していました。沈黙のあとに差し出される手、わずかな頷き。その瞬間に、人が人を信じる強さが浮かびます。
④ 余韻としての沈黙
丘の上で母と息子が立ち尽くす場面。風が吹き抜け、カメラは動かず、逆光のシルエットだけが残ります。声も音楽もない静寂が、これまでの旅路を包み込むようでした。光がゆっくりと消えていくその構図が、終わりと始まりの両方を告げているように感じられます。
キャスト/制作陣の魅力
ナタリー・ジーア(イヴ・ハリス)
代表作:「ザ・フォロイング(The Following)」「ジャスティファイド — 報復の荒野 — (Justified)」「ダーティ・セクシー・マネー(Dirty Sexy Money)」
知的で強い女性像を多く演じてきたジーアは、本作で“母としての勇気”を繊細に描きました。寒風の中で撮影された雨のシーンでは、震える手を抑えながらも子どもを包み込む姿が印象的でした。生への意志が、彼女の瞳に宿っています。
オーイン・マッケン(ギャヴィン・ハリス)
代表作:「ナイト・シフト 真夜中の救命医(The Night Shift)」「ヒア・アー・ザ・ヤング・メン(Here Are the Young Men)」「キラーズ・アノニマス(Killers Anonymous)」
これまで屈強な役柄を演じてきたマッケンが、本作では家族を想う父としての脆さを見せています。幻視のシーンでは、わずかなまばたきで“信じたい心”と“失う恐れ”を同時に表現し、その微細な演技が胸に残ります。
ザイラ・ゴレッキ(イジー・ハリス)
代表作:「アメリカン・ソウル(American Soul)」「ザ・リビング・アンド・ザ・デッド(The Living and the Dead)」
自身も義足で生活する俳優として出演し、キャラクターの強さと優しさをリアルに体現しました。歩くたびに響く足音が、まるで彼女の存在そのものを語るようです。イジーの笑顔は希望の象徴でした。
デヴィッド・アッペルバウム(クリエイター/製作総指揮)
代表作:「NCIS: ニューオーリンズ(NCIS: New Orleans)」「メンタリスト(The Mentalist)」
アッペルバウムが描くのは、SFの中にある“人の温度”。壮大なスケールの物語でありながら、ひとつの家族を軸にしている点が印象的です。未知の世界を舞台にしながらも、描きたかったのは「帰りたい」という普遍的な感情だったのでしょう。

筆者の感想
この物語の核心にあるのは、“穴”ではなく“距離”です。
家族が離れ、時間が引き裂かれ、それでも声を届けようとする。その間にある沈黙こそ、最も深い絆の証です。
イヴが焚き火の前で目を閉じるシーンでは、炎の明かりが小さく揺れながら、彼女の心の不安を優しく包みます。
そしてギャヴィンが夜空を見上げるとき、同じ星を見ているのは過去の誰か。
「どこにいても、きっと見つける」――その言葉が画面の外まで響きます。
観終えたあとに残るのは、時間や空間を越えても変わらない“想う力”。
それが『ラ・ブレア』の静かな希望なのです。
こんな人におすすめ
・家族の絆をテーマにしたSFドラマが好きな方
・タイムスリップや異世界設定の物語をじっくり味わいたい方
・サバイバルの中に人間ドラマを見つけたい方
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「ダーク」──家族と時間の循環を探るドイツ発SF。
「テラノバ」──原始世界での生存を描く壮大な冒険劇。
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