『レッド・ノーティス(Red Notice)』— 駆け引きの裏側に揺れる“信頼の気配”

美術品を巡る国際的な追走劇の中で、FBI捜査官と伝説の大泥棒、そしてその上を行く詐欺師が出会います。舞台はローマからバリ、そしてエジプトへ。監督はローソン・マーシャル・サーバー、主演はドウェイン・ジョンソン、ライアン・レイノルズ、ガル・ガドット。
華やかなアクションの裏で描かれるのは、騙し合いと信頼の駆け引きです。銃と冗談が飛び交う中で、互いの目的が交錯し、敵か味方かさえ曖昧になっていく。信じるとは何かを、笑いの中で試す物語です。

作品概要

制作年/制作国:2021年/アメリカ
上映時間:118分
監督:ローソン・マーシャル・サーバー
主演:ドウェイン・ジョンソン、ライアン・レイノルズ、ガル・ガドット
ジャンル:アクション/クライムコメディ/サスペンス

目次

あらすじ

物語の始まり

古代エジプトの女王クレオパトラに贈られた三つの黄金の卵、それをめぐる美術品泥棒たちの争奪戦が物語の発端です。FBI特別捜査官ジョン・ハートリー(ドウェイン・ジョンソン)は、世界的な美術品泥棒ノーラン・ブース(ライアン・レイノルズ)を追ってローマに赴きます。だが捜査の途中で謎の女性大泥棒“ビショップ”(ガル・ガドット)が現れ、すべての計画が狂い始めます。ブースは逮捕され、ハートリーは裏切りによって罪を着せられ、二人は同じ刑務所に収監されます。敵同士だった二人は、皮肉にも互いを頼るしかない状況に追い込まれていきます。脱獄という共通の目的が、奇妙な信頼の始まりになります。

物語の展開

雪山の要塞からの脱出劇を経て、二人は“ビショップ”が狙う次の卵の行方を追います。ブースは軽口を交えながら計画を立て、ハートリーは慎重に行動を監視します。二人の間にあるのは信頼ではなく、必要に迫られた協力関係です。
南米のジャングルでは、罠と裏切りが連続します。ビショップは常に一歩先を行き、二人を翻弄します。逃走と追跡が交差する中で、互いの過去と秘密が少しずつ明らかになります。ハートリーの冷静な判断の裏には、ある目的が隠されていました。ブースがそれに気づく瞬間、彼らの立場は再び入れ替わります。真実が近づくほど、誰もが嘘を重ねていくのです。

物語が動き出す終盤

三つの卵が揃うとき、世界中の注目が集まります。金と名誉を狙う者、過去の栄光に縋る者、それぞれの思惑が絡み合い、最後の対決の舞台は豪奢な美術館から密林の奥地へと移ります。ビショップが仕掛けた罠の中で、ハートリーとブースは互いの立場を見つめ直します。誰が敵で、誰が味方なのか、最後まで曖昧なまま時間が進みます。
そして明かされる真実は、すべてをひっくり返すものでした。誰よりも正義を信じていた者が、最も巧妙な嘘をついていたのです。勝者も敗者も存在せず、ただ信頼という名の虚構が残ります。物語は終わりではなく、次の“計画”の始まりを示して静かに幕を下ろします。

印象に残る瞬間

金属の冷たい光を反射する美術館のホールで、足音だけが響いています。警報の赤いランプがゆっくり回転し、絵画の表面に光が流れます。ブースとハートリーが同時に走り出し、追う者と逃げる者の区別が一瞬で曖昧になります。カメラは二人の視線の交錯を追い、照明の揺らぎとともに空気が緊張します。
その後、南米の夜、豪雨の中でヘリが飛び立つ。風で木々が揺れ、泥に足を取られながら三人が駆ける。ガル・ガドット演じるビショップのドレスが雨に濡れ、光を反射して銀色に見えます。彼女の笑みは静かで、何も語らずにすべてを制しているように見えます。追跡と裏切りの連鎖の中で、最も印象に残るのは勝敗ではなく、三人の呼吸のリズムです。互いを信じられない者たちが、同じ瞬間に息を合わせて動く、その時間こそが映画の核心です。

見どころ・テーマ解説

駆け引きが生むリズム

『レッド・ノーティス』の真価はアクションの迫力よりも、登場人物たちの駆け引きのリズムにあります。会話のテンポ、間の取り方、表情のわずかな変化がそのまま心理戦として機能しており、ドウェイン・ジョンソンとライアン・レイノルズが互いに“信頼できない味方”として息を合わせていきます。監督のローソン・マーシャル・サーバーは、冗談と真剣さの境をあえて曖昧に保ちながら、登場人物たちの嘘と本音を同時に描き出しています。彼らの掛け合いは、ただのバディムービーの笑いではなく、信頼を築こうとする試行錯誤の過程そのものです。リズムの中に、駆け引きの緊張と緩和が見事に共存しています。

嘘と真実の境界

この作品の世界には「真実」という確固たるものがほとんど存在しません。ハートリー、ブース、ビショップの三人が語る言葉はすべて戦略であり、嘘の中に本音を忍ばせています。特にガル・ガドット演じるビショップの存在は象徴的で、彼女の微笑みは支配と挑発を兼ね備え、視線一つで場の空気を支配します。監督はこの嘘の連鎖をスタイリッシュな映像で包み、観客に「どこまでが演技なのか」を考えさせます。アクションやジョークの中で、登場人物たちは常に自分を演じ続けています。正義も悪も役割のひとつに過ぎず、信頼すらも一時的な仮面として機能します。けれどその仮面を重ねるほどに、三人の人間的な部分が滲み出てくるのです。

動きが語る心理

本作のアクションシーンは、単に観客を楽しませるための派手な演出ではなく、心理描写そのものとして構築されています。逃走、格闘、追跡、その一つひとつの動きがキャラクターの内面を語ります。たとえば、ブースが逃げるときの軽快なステップには恐怖よりも生存本能が、ハートリーが銃を構える時の正確な姿勢には秩序への執着が見えます。南米の密林で三人が雨に打たれながら動く場面では、誰が主導権を握るかを言葉ではなく身体の動きで示しています。監督は動作と心理を同調させる編集で、アクションのリズムそのものに感情の波を埋め込みます。見ているうちに、動きが会話に変わり、沈黙が信頼の証へと変化していくのです。

信頼のゆらぎと再生

ラストで三人が同じ方向へ歩き出す場面は、この物語のテーマを凝縮しています。裏切りと共謀を繰り返してきた彼らが、最後には言葉を交わさずに歩調を合わせる姿に、不思議な連帯感が漂います。それは友情でも愛情でもなく、互いの嘘を理解した上で生まれた“認め合い”のような感情です。監督はそこに温度のある光を差し込み、空気をやわらかく包みます。信頼とは完全な真実ではなく、一瞬の理解によって成り立つものだというメッセージが、映像のトーンから静かに伝わってきます。作品全体を通じて描かれるのは、「信じる」ことの不安定さと、それでも人が誰かを信じようとする意志です。その矛盾を、アクションと笑いで軽やかに描いた点に、この映画の深みがあります。

キャスト/制作陣の魅力

ドウェイン・ジョンソン(ジョン・ハートリー)

『ワイルド・スピード』シリーズや『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』『スカイスクレイパー』など、アクションの象徴的存在として知られるジョンソンですが、本作では筋肉だけではなく理性と計算を併せ持つ人物像を演じています。正義を信じる男でありながら、冷静な判断の裏に感情を抑え込む繊細さがあり、笑顔の奥に迷いが覗きます。彼の静かな演技が物語に“重心”を与え、派手なアクションに人間的な厚みを加えています。

ライアン・レイノルズ(ノーラン・ブース)

『デッドプール』『フリー・ガイ』『名探偵ピカチュウ』で見せた軽妙なトークと反射的なユーモアが、本作でも鮮やかに機能しています。彼の持つ“口数の多さ”は、単なるギャグではなく防御反応として描かれています。冗談で場を支配しようとする一方で、孤独を抱えた泥棒としての一面が滲み出ており、そのギャップがブースという人物を魅力的にしています。最後のシーンで見せる微笑は、観客に言葉よりも深い余韻を残します。

ガル・ガドット(ビショップ)

『ワンダーウーマン』『ナイル殺人事件』『ジャスティス・リーグ』などでカリスマ性を発揮してきたガドットは、本作で圧倒的な優雅さと知略を持つ大泥棒を演じています。彼女の動作はすべてが計算され、立ち姿や指先の動きさえ物語を進める要素になっています。微笑む瞬間に見える冷たさと、沈黙の裏にある孤独の影が印象的です。華やかなドレス姿の奥で、常に状況を支配している知的な女性像を見事に体現しています。

ローソン・マーシャル・サーバー(監督)

『セントラル・インテリジェンス』『スカイスクレイパー』でアクションとコメディの融合を成功させてきた監督ですが、本作ではさらにテンポと構図の緻密さを追求しています。ユーモアの中に人間関係の繊細な揺らぎを織り込み、映像的なスタイルで「信頼の不確かさ」を語っています。大胆な編集のリズムと、予測を裏切る構成力により、観客を最後まで緊張と笑いの中に引き込みます。

物語を深く味わうために

『レッド・ノーティス』をもう一度観るなら、人物の距離に注目してほしいです。敵同士のはずの二人が、時に肩を並べ、時に背を向けながら同じ方向を見ています。その距離の変化が、信頼の成長を可視化しています。カメラは三人を常に斜めから捉え、誰も中心に置かない構図で関係の不安定さを強調しています。
また、光と色の使い方も印象的です。美術館の白い光、牢獄の灰色、南米の緑、そして夜の赤い照明。それぞれが人物の立場と感情の状態を象徴しています。特にラストのシーンで見える朝の淡い光は、裏切りの後に残る理解の色として機能しています。
アクション映画でありながら、この作品が描いているのは「誰を信じるか」よりも「誰と生き延びるか」という選択です。嘘の中にしか生まれない本当の絆があり、それを笑いながら描き切る監督の手腕が光ります。この映画は、信頼とは何かを問いかけています。肩を並べた一瞬の静けさの中にふと生まれるあの小さな信頼を思い出すと、駆け引きの裏側にこそ人が誰かとつながろうとする本音が隠れているのだと感じさせられます。


こんな人におすすめ

・スタイリッシュなアクションと軽妙な会話を楽しみたい人
・嘘と信頼の駆け引きに惹かれる人
・ドウェイン・ジョンソン、ライアン・レイノルズ、ガル・ガドットの共演を観たい人

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・「ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション」──欺きの中に芽生える信頼
・「フリー・ガイ」──ライアン・レイノルズのユーモアと人間味
・「ワンダーウーマン」──ガル・ガドットが体現する知性と強さ
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配信ガイド

現在配信中:Amazon Prime Video/U-NEXT
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